諏訪の地で昭和33年に開院以来60余年、地域の皆様に貢献いたします。

将来、元気で長生きしていくためには?②

だいぶ涼しくなってきましたが、皆さんいかがお過ごしですか?季節の変わり目は風邪をひきやすいので、手洗い、うがい、栄養をよくとってぐっすりお休みになれるといいですね。

さて、本日は前回からの続きです。前回は生活習慣病により、将来介護が必要になってしまう方が多いというお話でした。今日は、生活習慣病とお口の健康についてお話していきたいと思います。

歯周病は、実は体に大きな影響を与えている!?

前回、介護が必要になってしまう原因は、認知症や、脳血管疾患、高齢による衰弱などというお話をしました。そして、それらの原因は高血圧や、糖尿病などの生活習慣病であると言うお話をしました。実は、これらの病気に歯周病が大きな影響を与えていることが最近わかってきています。

右の二つの図は前回も見ていただいたものです。左は歯周病が全身の病気にどのように関連しているかということを、示しています。代表的なものを、いくつか見ていきましょう。

歯周病により、認知症リスクは6倍に!?

まずは認知症からです。介護が必要になる原因の第一位が認知症です。認知症にもいくつか種類があるのですが、最も多いものが「アルツハイマー型認知症」と言われるものです。このアルツハイマー型認知症と歯周病が関係している可能性が、最近指摘されています。詳しい説明は専門的すぎるので、省きますが、歯周病細菌が脳に進入して、脳神経が混乱したり、脳血管が詰まりやすくなることで、認知症を悪化させてしまう可能性があるようです。ある研究では、歯周病の人は、認知症に6倍かかりやすいという研究もあります。

また、そういった難しい話ではなく、歯周病により歯が抜けてくると、噛むことが満足にできなくなります。そうなると、脳への刺激が少なくなり、認知症は進みやすいとも言われています。また、歯がなくなることで、会話もしにくくなり、見た目も悪くなるため、人とのコミュニケーションが少なくなる方が多いです。人と接する機会が減ると、特に男性は認知症が進みやすくなります。まだ、研究途中のことも多いですが、こういったことからも、歯周病は認知症に悪影響を与えていることを完全に否定することはできないでしょう。

歯周病と糖尿病は相互に悪影響を与え合う

次は糖尿病です。糖尿病は生活習慣病のひとつで、失明や足の壊死を引き起こしたり、最悪命に関わる大変怖い病気です。歯周病と糖尿病の関係については、かなり研究が進んでおり、相互に悪影響を与え合っていることが、ほぼ確実と言われるようになってきました。

糖尿病は一言で言うと、血糖値が高くなる病気です。この血糖値を抑える物質をインスリンと言うのですが、歯周病がひどくなると、このインスリンと言う物質がうまく働けなくなり、その結果血糖値が上がってしまうと言うことがわかっています。また、血糖値が高くなると、体の免疫が活性化します。歯周病と言うのは細菌に対して、免疫反応を起こしているわけですが、血糖値が上がり、免疫がさらに上がることで、歯周病は過度の免疫状態におかれ、さらに悪化して行ってしまうと言われています。

上のようなことが、明かになってきたため、最近は糖尿病の治療ガイドラインに「歯科医院で、歯周病治療をうける」と言う項目が追加されています。また、歯科医院でも歯周病治療のために糖尿病の検査や治療を依頼するようになってきました。当院でも、簡易的な血糖測定を重度の歯周病の方には行い、必要があれば糖尿病の先生にご紹介をしています。糖尿病は、歯周病が悪影響を与える代表的な病気となっています。

歯周病が動脈硬化を引き起こす可能性

動脈硬化との関連も指摘され始めています。動脈硬化とは、血管がつまり大切な臓器への血流が滞ってしまうことで、代表的な疾患に、脳梗塞や心筋梗塞などがあります。

歯周病細菌は、お口の中の血管から体内に侵入し、体の中を血液にのって循環することがわかっています。その間に、血液を固める働きを持つ血小板が歯周病細菌に反応して、血液の塊を作り出してしまい、血管がつまる原因となっていると言われています。また、歯周病細菌や歯周病そのものによって、全身の炎症レベルが上がることで、動脈効果を促進してしまっていると言う説もあります。

まだ確定的ではないものの、脳梗塞や心筋梗塞は命に直結する病気です。そういった病気に歯周病が関わっている可能性が強まっている以上、歯周病治療の重要性は今まで以上に増していると思います。

歯周病は早産、低体重児出産のリスクとなる

最後に、長生きとは少し違いますが、とても大切なことなので、こちらもご紹介させていただきます。実は妊婦さんが歯周病の場合、赤ちゃんが早産したり、低体重で生まれてしまうリスクが高くなることがわかっています。歯周病細菌が胎盤を通過して、赤ちゃんに感染したり、歯周病による炎症性サイトカインと言う体内の信号が、赤ちゃんの出産を早めてしまうためだと言われています。

そして最も大切なことは、既に妊娠された方の歯周病を治療しても、そのリスクは下がらないと言うことです。歯周病による赤ちゃんへの影響を少なくしたければ、妊娠前に歯周病の検査をし、もし歯周病があるなら妊娠前にその治療を完了させる必要があると言うことです。妊婦検診と言うものがありますが、それで歯周病が見つかってからでは遅いと言うことです。20代であれば、進行した歯周病にかかっている方はかなり少ないでしょう。しかし、最近は30代、40代で妊娠される方も多く、そういった年代の方は、歯周病が進行していることも人によってはあるでしょう。

こういった事は、とても大切な事なのですが、妊活をされているような方であっても、あまりご存知ない事がほとんどです。是非、回りでこれから妊娠を考えられている方がいらしたら、妊娠前に歯科医院で歯周病の検査を受けるように伝えてあげてください。

いかがでしたでしょうか?他にも、関節リウマチ、メタボ、慢性腎臓病、COPD、そしてガンにまで、影響を与えているのではないか、と言う研究もあります。歯周病が体全体に大きな影響を与えていると言う事が常識になりつつあります。実はこういった事が背景にあり、最近は政府が国民皆歯科検診なるものを始めようとしています。国民の皆さんの歯周病を早期に見つける事で、将来の病気への影響を少なくし、医療費を抑えると言う事が目的です。いち歯科医師として、この制度には疑問に思うところもありますが、少なくとも日本という国が、国民の皆さんの健康を考える上で、歯周病はとても大切な要素だと考える程には、医学的な根拠があると言う事は間違いないでしょう。

そんな歯周病は、国民病と言われ、国民の8割が感染していると言われることもあります。これは言い過ぎにしても、多くの人が歯周病にかかり知らず知らず、進行している事は確かです。お口だけでなく、将来の健康にまで影響するかもしれない歯周病。是非、定期的に歯医者さんで検査を受けてみてください。