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子供が歯磨き粉を間違えて食べちゃった!

 こんにちは。副院長の章浩です。先日、ある患者さんから、緊急の連絡が入り。「0歳の息子が謝って、フッ素入り歯磨き粉を食べてしまいました。大丈夫でしょうか?」という問い合わせがありました。状況をお聞きする限り、大事には至らない可能性が高かったので、経過観察とし、その後何事もなく、幸いではありましたが、確かにこういう時にどうすればいいのか、ということも知らないと不安ですよね。そのため、今回は、お子さんが誤って、フッ素入り歯磨き粉を飲んでしまった場合のお話をしていきたいと思います。

1度に大量に摂取すると、フッ素中毒の可能性あり

 フッ素は、むし歯予防に大変効果があり、是非お子さんやむし歯リスクが高い方には、フッ素入り歯磨き粉を使っていただきたいです。その一方で、今回の事例のように、小さなお子さんが誤って歯磨き粉の中身を食べてしまうということもありえます。そのような時は、どのような危険があるのでしょうか。

 フッ素は一度に大量に摂取すると、フッ素中毒になってしまう可能性があります。中毒の主な症状は、軽ければ、お腹のもたれや嘔吐、下痢と言った、消化器系の症状が出現し、中程度であれば不整脈が、重症な場合には最悪、死に至ることもあります。

体重が10キロ以上のお子さんであれば、致死量になることはほぼない

 ではどのくらい食べてしまうと、死の危険があるのでしょうか。それは、食べてしまった歯磨き粉の量と、それに含まれているフッ素濃度、そして歯磨き粉を食べてしまったお子さんの体重がどのくらいかで変わってきます。

 一例をご紹介します。計算式があるのですが、それを書くよりも、例で書いた方がわかりやすいので、そちらでお話しています。

例)体重10キロの生後10ヶ月の赤ちゃんが、フッ素濃度1450ppmの歯磨き粉を丸々1本飲み込んでしまった。

 まずフッ素濃度というのは、その歯磨き粉にどの位フッ素が含まれているのか?ということです。ppmというわかりにくい単位ですので、難しく感じますが、%に直すと、1ppm=0.0001%となります。つまり、1450ppmというのは、0.145%ということです。ちなみに、1450ppmというのは、日本で発売されている歯磨き粉のフッ素濃度としては最も高く、これよりも高濃度のものは日本の薬局や歯医者さんでは手にいれることができません。

 次に丸々1本というのが、何グラムなのかということです。これは、製品によって異なりますので、それぞれご確認いただければと思いますが、今回は当院で扱っている歯磨き粉と同じ135グラムとしたいと思います。そうすると、135グラムの歯磨き粉のうち、0.145%がフッ素ということになります。つまり、135g×0.0145=0.19575 つまり約0.2グラムのフッ素が含まれているということです。

 そして、フッ素の致死量は最低、32mg/kg と言われています。つまり、体重10キロの赤ちゃんでいえば、320mg、つまり、0.32gとなります。

 要約すると、体重10キロの赤ちゃんであれば、フッ素を0.32g摂取すると、命の危険があるということです。しかし、日本で最も高濃度の歯磨き粉を全量食べてしまったとしても、摂取するフッ素は0.2gなので、死んでしまうところまではいかない可能性が高いということです。実際には、小さな子が一度に歯磨き粉を全部飲み込んでしまうということはないでしょうから、体重が10キロに満たないお子さんであっても、死んでしまう可能性というのは、現実的には低いと思われます。とはいえ、不整脈やそこまでいかなくても、消化器系の不調が出てくることはありますので、そう言ったことがないよう、対策をすることは大切です。

写真は当院で扱っている、135g、1450ppmの歯磨き粉。これだけ大きなものを全量食べるのは、大人でもなかなか大変ですよね。

 ちなみに、消化器系の不調は 2mg/kg で出現する可能性があります。10キロの赤ちゃんであれば、20mgです。1450ppmの歯磨き粉の場合は、13グラム(大さじ1)ほど間違って食べてしまうと、危険ということです。

もし、実際に子供が食べてしまったら、どうすればいいの?

 致死量のフッ素を市販の歯磨き粉から摂取することは、現実的には難しいということはわかりました。ただ、消化器系の不調などを訴える可能性があります。もし、子供がフッ素入り歯磨き粉を、誤って食べてしまったらどうしたら良いのでしょうか?

 消化器系の不調は、摂取したフッ素と胃酸が結合し、フッ化水素ができ、胃の粘膜を刺激することで起きるようです。そのため、フッ素の大量摂取が疑われる時は、牛乳やアイスクリームを食べさせて、胃の中でフッ素が胃酸と結合する前に、無害なフッ化カルシウムを作るようにしてあげます。そうすることにより、消化器系の不調を防ぐことができす。ただし、牛乳にアレルギーがあったり、まだ飲んだことがない場合には、危険なのでやめましょう。もし、悪心や嘔吐、下痢といった症状が出た時には、速やかに内科を受診してください。経過観察で済む場合もありますが、脱水や不整脈が疑われる場合には、数日入院して処置をする場合もあります。

 大量摂取が疑われる時には、どの程度危ない状態か、をおおまかに計算することも大切です。それには、上で示したように、飲み込んでしまったお子さんの大体の体重、飲み込んだフッ素の濃度と量を把握する必要があります。このうち、フッ素濃度ですが、1000ppmを超える高濃度フッ素が含まれている場合には、製品にそのフッ素濃度を記載することが義務付けられています。つまり、記載がなければ1000ppm未満といことですので、悪く考えて,950ppmと想定しておくと良いと思います。食べてしまった量ですが、これはなかなか把握することが難しいかもしれません。前に残っていた量がおおよそ分かれば良いですが、難しければ残っている量を見て大体の検討をつけましょう。もし、計算をして、消化器系の不調もほぼ考えられない時は、そのまま経過観察で良いでしょうし、今後起きる可能性がある場合には、牛乳を飲ませて、経過観察、もし不調を訴えるようであれば、内科を受診という形が良いでしょう。

子供が誤って、歯磨き粉を食べないよう対策を

 フッ素の誤食の多くが、お兄さんやお姉さんが使った歯磨き粉が原因で起きています。具体的には、お兄さんが使った歯磨き粉が、小さいお子さんの手の届くところに置いてあり、それを食べてしまうというケースが一番多いです。対策としては、歯磨き粉の管理する場所を、小さい子の手の届かない所にする。歯磨き粉は、その保管場所で歯ブラシにつけ、すぐに保管場所へ戻す。他の場所へ持っていかない。使用する歯磨き粉はできるだけ、容量の少ないものにする。子供達に、フッ素の有効性と共に、小さな子にとっては危険なものだといこともしっかり伝えておく。などが挙げられます。

いかがでしたか?フッ素はむし歯予防にとても効果的ではありますが、もしもの時のことを知って使うことも大切です。安全に家族みんなで、むし歯予防をしていきましょう。