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歯と認知症の関係について

 こんにちは。今回は、歯と認知症の関係についてお話していきたいと思います。というのも、先日諏訪赤十字病院精神科の吉澤先生のご講演を拝聴する機会があり、そちらで歯科と認知症のお話をされていました。最近は、糖尿病を始め、歯科と全身疾患の関係性が指摘されはじめていますが、認知症も例外ではありません。

 

歯の喪失は認知症と関係がある

 歯を失うことで、認知症のリスクが高くなることが、多くの研究で報告されているようです。ある研究では、歯を1本失うごとに、認知症のリスクが1%増加すると報告されています。

なぜ歯が少ないと認知症になりやすいのか?

それでは、なぜ歯を失うと認知症のリスクが上がってしまうのでしょうか?その原因はまだ確定されてはおらず、いくつかの説が存在します。

栄養不足仮説

 歯を失うと、食べられるものに偏りが出てきて栄養状態が悪くなります。脳への栄養も不足し、認知機能に障害ができてしまうようです。

②咀嚼障害仮説

 咀嚼によって脳血流量が増加することは、以前から知られていました。歯が多くなくなることで、食べられるものが柔らかいようなものに偏るので、自然と咀嚼の回数も減ってしまいます。すると、脳血流量が減少し、記憶を司る海馬の細胞数が減ることで認知機能の低下を引き起こしている可能性が指摘されています。

③慢性炎症仮説

 吉澤先生曰く、最も可能性が高い説だそうです。私も歯周病と全身疾患についての勉強をした際には、こちらの説が紹介されていました。炎症とは、簡単にいうと、細菌やウイルスなどの外敵を排除しようとする体の防御反応のことです。(体という国を守るために行う防衛戦争といったところです)歯周病は歯周病細菌によって引き起こされるので、歯周病にかかった人は、必ずお口の中が炎症状態になります。普通の風邪ウイルスなどであれば、この炎症によって大概駆除されて治っていくのですが、(この時、外敵を排除するために、体という国の防衛軍は全力で戦います。体と外敵の間で大戦が勃発するのです。この大戦は、防衛軍にも多くの被害を出すため、発熱したり、膿が出たりと痛みを伴います)歯周病はお口という特殊な環境で起こるため、この炎症では歯周病細菌を全て駆除することはできません。そのため、痛みを伴うようなひどい炎症状態にはなりませんが、常に歯周病細菌から体を守ために小さな炎症が続くことになります。これを慢性炎症と呼びます。(大戦ほどにはならず、外敵と防衛軍で小競り合いが続いているといったところでしょうか)

 炎症は、勝手に起こるわけではなく、体の状態を見た脳がサイトカインという特殊な信号を発信し、それに伴って炎症は引き起こされていきます。つまり、歯周病になった人はこの炎症のサイトカインが常に出続けている状態になるわけです。この炎症のサイトカインが出続けることで、脳の神経までもが炎症を起こし、認知機能の低下につながってしまうのではないか、という説です。

この説は、認知症だけではなく、糖尿病や、早産にも同じことが言えるようです。

④幼少期と認知機能の交絡説

 そもそも、若い頃に認知機能の高い人は、お口も綺麗に磨けるので、生涯で失う歯が少なく、認知機能も維持しやすいという説のようです。私は、個人的にはこの説には否定的です。歯周病の進行は、どれだけ歯を綺麗に磨けるかということが関係はしています。しかし、約1割の人は、どれだけお口の中が汚れていていても歯周病にはなりませんし、逆にどれだけ綺麗に磨けていてもどんどん歯周病が進行していく人も1割程度いらっしゃいます。(スリランカ・スタディ)幼少期に歯磨きが上手だったからといって、歯周病を完全に防ぐことは難しいと個人的には思っています。

ここまで、認知症と歯に喪失についてお話してきました。それでは、認知症を予防することはできるのでしょか?

入れ歯を入れることで認知機能が回復する

 入れ歯を入れることで、認知機能が改善することが報告されています。また、歯を喪失した人の中でも、入れ歯を使用していない人と、入れ歯を使用している人とでは、入れ歯を使用している方が認知症になりにくいことも報告されています。入れ歯を入れることで、咀嚼もでき、栄養状態も回復することが良い影響を与えてくれるのではないでしょうか。

歯周病の治療も大切

 やはり、歯周病の治療や予防も大切なようです。歯周病があった場合、認知機能の低下はかなり急速に認められるという論文もありますし、歯周病治療を行ったことで認知症の発症と進行を遅らせたり、予防できるとい結論づけているものもあります。歯周病を本当の意味で完治させる(慢性炎症も含めて)ということは、とても難しいことですが不可能ではありません。私も臨床応用顕微鏡歯科学会のご指導のもと、勉強中ですので、日々の努力を怠らないように頑張っていきたいと思います。