こんにちは。前回は、歯並びが悪いことが、睡眠時無呼吸症候群をはじめとし、体に悪影響を与えるというお話をしました。https://hf-dental.com/?p=1114
今回は、もし睡眠時無呼吸症候群と診断されてしまった時に、どういった治療法や、それ以上悪くしない予防法があるのかというお話をしていきます。
まずご紹介するのがうがいトレーニングです。これは、予備軍から重症の方まで必ず行うようにお話しています。睡眠時無呼吸症候群のそもそもの原因は、歯並びというお話もしましたが、直接的な原因は舌が重力に逆らえず、喉へ落ち込み、気道を塞いでしまうことにあります。ですので、歯並びが悪くても、この舌の筋肉を鍛えておけば、ある程度回復したり、予防することが可能です。とても大切なトレーニングになりますので、今日から必ず行ってください。
やり方としては、少量の水をお口に含み、その水を右側、上側、左側、下側と各5秒くらいずつぶくぶくを行います。この時、できれば舌をそれぞれの方向へ動かすように意識してください。これをできれば2分くらい連続で行ってください。ただ、おそらく最初は2分はできないだろうと思います。唇の周り、そして喉の辺りの筋肉がパンパンに張って、すごく辛くなると思います。辛くならないようでしたら、やり方が少し違うかもしれませんので、特に舌の動きを意識してください。ですので、最初は1分くらいでもいいので、まずはやってみてください。そして、継続してください。習慣化することが何より大切です。おすすめは、歯ブラシの後のうがいでこのトレーニングをやってしまうことです。継続することで、半年くらいすると、効果が出てくると思います。このトレーニングはフレイル予防や、ほうれい線の解消にも有効です。時間もお金もかからず、とても有効ですので、全員必ずやってください。
次にご紹介するのはあ・い・う・べ体操です。これは、割と有名なので、知っている方もいるかもしれません。
できる限り大きな声を出し、できる限りはっきりと口の形を意識して、「あ、い、う」と発声し、最後に「ベぇー」と思いっきり舌を前へ出してください。ここまでを1サイクルとして、1日30サイクルを目標に頑張りましょう。この体操も最初は30回は無理かもしれませんが、うがいトレーニング程疲れないので、1ヶ月も続ければ30回できるようになると思います。この体操も、お口周りの筋肉と舌の筋肉を鍛えらえるいい体操です。こちらも習慣化が大切なので、ご自身でできそうなタイミングを見つけてやってみてください。
こちらは、偏頭痛のある人におすすめです。偏頭痛は多くの場合、左右の筋肉の緊張のバランスが崩れ、どちらかに偏り、頭蓋骨に歪みが起きてくることが原因です。このタオルトレーニングは、そんな頭蓋骨の歪みを解消してくれるため、偏頭痛でお悩みの方は是非やってみてください。
ハンドタオルを、犬歯あたりで噛んで、思いっきり5秒間引っ張った後にパッと離すことがコツです。これを片側3回、両側で6回行ってください。
ここからは、マウスピースによる治療を紹介していきます。マウスピースは基本的に、睡眠時無呼吸症候群と診断された方に装着して寝ることをおすすめしています。いくつか種類がありますので、それぞれ解説していきます。ここで、大切なのは、まずマウスピース療法は対症療法でしかないということです。もちろん、それでも症状を改善することはできますので、行っていくべきですが、この治療と合わせて前述のトレーニングは必ず行ってください。
マウスピースの基本的な概念は、下顎を前に出すことによって、舌を前に出し無呼吸状態を改善するというものです。この状態をどのようにして作っていくかがそれぞれのマウスピースによって異なります。
まずは上下一体型のマウスピースです。上下が固定されており、これを口に装着すると、勝手に下顎が前へ出るので、舌も前へ出てきます。そのようにして、無呼吸を解消するためのものです。
保険適応ですので、比較的安価で製作が可能です。しかし、当院では現在この装置による治療は行っていません。理由は大きく二つあります。
ひとつは、この装置は顎関節症を引き起こすリスクが非常に高いことです。通常、人は、寝ている間に程度の差はあれ、歯軋りをします。これは、ストレスの緩和など意味のある行為で、歯軋り自体はとても大切な役割を果たしています。ですので、体は歯軋りを行おうとするのですが、このマウスピースは上下の歯が固定されているので、全く歯軋りをすることができません。下顎が動こうとするのをマウピースによって、止められてしまいます。その時に、下顎の動きの中心になっている顎関節には大きな負荷がかかるのです。この装置を装着し、1ヶ月ほどで顎関節症になる方が非常に多くいらっしゃいます。
ふたつ目は、この装置は舌の廃用性萎縮を引き起こすことです。廃用性萎縮は聞き慣れない言葉かと思いますが、簡単にいうと、人間の体は、使わない機能は必要ない機能と判断し、その能力がどんどん落ちていくということです。怪我や病気で長いことベッドの上で生活していると、歩くことすら難しくなり、リハビリが必要になることがありますが、それも廃用性萎縮の一つです。この装置は勝手に下顎が前へ出て、自然と舌も前へ出てくる装置です。つまり、舌は苦労せずに、前へ出てくるので、舌の筋肉が一切使われないのです。舌の筋肉トレーニングが、とても大切だと前述しましたが、この装置は真逆で、舌の筋肉がどんどん衰えていってしまうのです。その結果、最初の3ヶ月ほどは無呼吸も少なくなり、劇的な効果をあげますが、しばらくしてこの装置をつけても舌が気道を塞ぐようになり、再び無呼吸が起きはじめます。すると、装置を改良して、さらに下顎を前へ出します。すると、またしばらくはいいのですが、また3ヶ月ほどして無呼吸が再発します。下顎も前へ出すのには限度がありますので、最終的にこの装置は舌の筋肉を衰えさせるだけのものになってしまい、無呼吸の悪化を招く危険もあります。
以上の理由により、当院では、この上下一体型そして、それと同じ仕組みで無呼吸を解消しようとするマウスピースでの治療は行っておりません。
当院では、軽症の方にはこのマウスピースをおすすめしています。噛み合わせによって、上か下かは変わりますが、どちらか片方にマウスピースを装着します。片側だけでもマウスピースを装着することによって、下顎を前へ出す時に歯同士ができるだけ邪魔をないようにし、かつマウスピースに下顎の歯を引っかけるための溝を作ることで、下顎が前に出た状態を維持しやすいようにします。
欠点としては、溝を掘り込んだ部分が薄くなるため、その部分で壊れやすくなってしまうことです。また、片側のみに装着するので、反対側の歯の影響をどうしても受けて、スムーズに下顎を前へ出せない可能性もあります。無呼吸の頻度が少ない軽症の方向けのマウスピースです。
上記のマウスピースの欠点を補うのが、このFプレートというマウスピースです。このマウスピースは上下に装着しますが、前述の保険適応のものと違い、上下が固定されていません。しかし、上下のマウスピースが一切、お互いを邪魔しないよう動くように製作されているため、下顎がとてもスムーズに前へ出てくることができます。前だけでなく、歯軋りやどんな動きをしてもスムーズに動きますので、顎関節症や、歯軋りによる歯の痛みなどにも効果を発揮します。Fプレート専門の技工士さんが作ってくれるので、非常に精度が高く、しっかり使えるとかなり睡眠の質が改善されます。下顎を前に出す機会が多くなる、中等度以上の無呼吸の方に是非とも使っていただきたいマウスピースです。朝外した際に、下顎が前に出ているため、奥歯が噛み合わないことがありますが、30分程でもとに戻りますので、ご安心ください。
しかし、Fプレートにも欠点があります。それは、下顎が大きく後ろに下がってしまっている人は使えないということです。細かい説明は、やや長く難しくなるので省きますが、下顎が後ろに下がり、上の前歯によって下の前歯がほぼ隠れて見えないといった方の場合、Fプレートを装着すると、著しい不快感を覚えることがあり、なかなか使うことが難しいのです。そんな時に装着するのが、下側のみに装着するTRPスプリントというものです。
これは、前述した片方のみに装着するマウスピースに似ていますが、こちらは専門の技工士さんが、緻密な作業を繰り返し行い、上顎の歯とピッタリ合わさり、下顎が本来のやや前の位置くるように誘導してあげるマウスピースです。下顎が前へ出るため無呼吸の解消になります。もちろん、固定するほど強固なものではないので、舌の廃用性萎縮も起こりません。Fプレートに比べると、やや効果は落ちますが、それでも睡眠の質は大きく改善されます。Fプレートがつけられない、中等度以上の方におすすめです。Fプレート同様、下顎が前にでた感じが、朝ありますが、こちらもすぐに戻りますのでご安心ください。
睡眠時無呼吸の治療というと、こちらを思い出す人も多いのではないでしょうか?こちらは、重症の方のみに適応ですが、マスクをつけて強制的に空気を送り込んで気道を開き、呼吸できるようにするものです。
こちらの治療は、内科でのみ受けることができます。重症の場合は、とにかく無呼吸の改善を行うことが最優先です。その意味でこの治療は、とても効果が期待できます。ただ、この治療も一つ注意が必要です。それは、勝手に空気が入り込んでくるので、肺の廃用性萎縮を引き起こす可能性があるということです。例えば、旅行先や、災害に見舞われた避難所などでC-PAPが使えないといった場面では、途端に苦しくて寝られない、場合によっては命の危険もあり得るということです。そういった可能性も完全には否定できません。ですので、前述したトレーニングはもちろん、できればFプレートのようなマウスピース療法も併用していただき、C-PAPのみに頼らない、舌や肺にある程度負担をかけるように寝る日を作ることも大切ではないかと思います。
最後は唯一の原因療法を紹介します。少し復習になりますが、睡眠時無呼吸の原因はなんだったでしょうか?その一つに、顎の骨が小さく、歯並びが悪いので、舌が後方へ下がりやすくなるといったものがありました。つまり歯並びを整えて、かつ舌が入るスペースを広げてあげることができれば、睡眠時無呼吸の原因療法になり得るわけです。
その唯一の方法が、SH療法と呼ばれる特殊な矯正治療です。特殊な装置を使い、抜歯することなく、歯並びを整え、舌のスペースを確保することができます。この矯正治療については、下記リンクにて詳しくお話していますので、是非そちらもお読みいただければと思います。https://hf-dental.com/?p=1215
重症の無呼吸も軽症レベルにまで改善された報告もあります。マウスピースや、C -PAPではそのものがないと、症状はまた起きてきてしまいますが、歯並びが悪いことが睡眠時無呼吸の原因になっているという人は、このSH療法をすることで、歯並びもきれいになり、睡眠時無呼吸の治療もできるという一石二鳥な素晴らしい方法なのではないでしょうか?
いかがでしたか?睡眠時無呼吸症候群は、将来の健康や寿命にも影響を及ぼす大変怖い病気です。リスクのある人は定期的に検査をし、できるだけ早く治療や予防を行えるようにしましょう。また、もし今症状のある方は、一刻も早く治療を行い、これ以上進行することを防ぐことが大切です。